2007年1月18日 第42回MKCRセミナー

発表者:鄭 廣姫
      韓国教育開発院主任研究員
題目:
韓国における「放課後学校」政策とその展開
日時:
2007年1月18日(木)17時~18時30分
会場:武庫川女子大学中央キャンパス学術研究交流館2階会議室 



発表要約


 1.はじめに

 韓国では2006年から「放課後学校」政策が政府レベルで主要政策として捉えられ、積極的に推進されている。通常、放課後活動といえば学校正規授業が終わってから個々人の子ども・生徒が学校あるいは学校以外のところで行われる諸活動を意味し、個々人の興味や趣味などに関わる遊びからスポーツ、趣味・文化活動、そして必要性による補充・深化の学習活動などまで、その内容や形はさまざまになる。これらの活動は、自分の希望や関心などから行われるため学校生活のような組織的緊張感はあまりないと思われる。参与可否の決定も基本的には自分からするので、気楽に楽しく参加する活動というイメージがある。

 ところが、韓国の過剰の教育熱と大学入試競争の激しさの影響は子ども・生徒の放課後活動に及ぼし、中学生、高校生の放課後活動を見ると、ほぼ大学入試に関係する教科関連の私教育(塾などで行われる教育)が多い。教科以外の芸術、スポーツ関連の放課後活動が行われる場合もあるが、これも大学進路に関わっている場合が大部分である。このような現象は小学校の段階の子どもからも見られる。
  
 ここで21世紀に向け行われた1995年の教育改革案では、学校が中心になって多様なプログラムを運営することを提案し、個々人の特技、適性を啓発し、活かす、「放課後活動」が奨励された。これらの活動は基本的に学校施設を利用することで、学校の先生あるいは講師を学校が管理する方式が採用されているので、学校外で行われている塾中心のプログラムに比べると、教育プログラムや講師の質管理がある程度可能となり、質高い教育プログラムを低費用で利用できるという長点を持つ。

 この「放課後教育活動」は、その後「特技・適性教育」という名称で多様化が図れ、去年からは「放課後学校」という名称で拡大、推進されることになった。「放課後学校」という用語はその名のとおり放課後に運営されるもう一つの学校ということになるので、以前よりも組織的構成と運営体系が整えられることが予想されている。この用語は、2003年末から放課後教育活動の活性化を図り、大統領が持ち出したことをきっかけで、2006年度からは正式的に政策名として全国的に使われることになった。

 本日は、最近韓国で教育政策の中でももっとも力を注いでいる「放課後学校」に注目し、この推進背景、性格と運営内容を紹介したうえで、日本において最近発表された放課後活動に関わる政策「放課後子どもプラン」と比較して考えてみたい。


 2.韓国における「放課後学校」の推進背景と経過

 1)趣旨と経過
 
 韓国における放課後学校の運営の趣旨は、基本的には「私教育費」の軽減にある。学校の正規のカリキュラムでは対応できない多様な教育需要に向けて、学校と地域社会の人的・物的資源を積極的に活用、学校内で吸収し、教育を受ける機会が相対的に限られている疎外地域(農山漁村)の子ども・生徒及び低所得階層の子どもに放課後に良質の教育・保育の機会を提供することにより教育の両極化を解消し、私教育費を軽減する、ということである。
 韓国では、子どもの放課後の活動はふつう個人レベルで行われてきたが、1995年の教育改革案で「放課後教育活動」が提案され、翌年から放課後教育活動の活性化方策が推進されたことから、学校の施設中心の放課後活動が行われることになった。そのうちこの放課後教育活動は「特技・適性教育活動」(1999)と名づけられ、各学校の要求と条件によって積極的、あるいは消極的に運営されてきたが、2004年に私教育の軽減のための短期対策としてこの活動の活性化が取り上げられてからは、積極的な運営の方策が樹立、推進され始められた。そして以前の放課後教育活動をより活性化し、拡大する意味をも含み、政策的に「放課後学校」という用語が使われることになった。政策推進の一段階として2005年に48校(小・中・高)の放課後学校モデル校を設置、運営され、2006年度1学期始まりの3月からは「放課後学校」が全面的に実施されることなった。教育人的資源部の資料によると、2006年6月現在、全体学校の98.9%の学校で、42.6%の子どもと生徒が放課後学校に参加している(小学生36.4%、中学生28.9%、高校生72.2%)。この参与率を2007年度までには50%に、2009年までは60%以上に上げるのが教育人的資源部の目標値である。また、20062学期からは低所得階層の子どもが経済的な負担なしに放課後プログラムを利用できる放課後学校バウチャー制度も導入され、2007年からその範囲をより拡大する計画にある。

 2)推進背景

 政府が放課後教育活動を積極的に強調、支援する方針を立てた背景には、1)社会両極化の緩和のための教育格差の解消への要求、2)少子化・高齢化などの社会の変化に応じる教育サービスへの要求増大、3)私教育費軽減のための放課後教育活動の改善への必要性の増大などがある(教育人的資源部、「2006年放課後学校運営計画」、2006)。以下で、この政策推進の背景となっている上記の三つの内容をもう少し詳しく整理してみる。
 第一に、社会両極化緩和のための画期的な教育格差解消方策への要求は、所得階層別・地域別教育費の支出の格差が大きいことから生まれた問題提起でもある。統計庁の資料によると、所得別・地域別教育費の支出は次のとおりである。

 ○所得階層別・地域別教育費支出の格差(月平均教育費基準、統計庁)

 ・所得1分位:9.9万ウォン、所得10分位62.2万ウォン(2005年3分期)
 ・ソウル59.4万ウォン、中小都市及び村4邑面44.4万ウォン(2004年)

このような教育費支出の格差は教育格差につながり、この教育格差は短期的には学業成就度の格差に、長期的には学力間の賃金・所得格差に関わっていく

 ・地域別学業成就度(高2言語、120満点):広域市(77.84点)、邑面(54.37点)(‘05)
 ・学歴間賃金の推移:大卒:273万ウォン(2003年)  301万ウォン(2005年)
               高卒:190万ウォン(2003年) → 206万ウォン(2005年)

第二に、少子化・老齢化など社会変化に応じた教育サービスへの要求が増大している。特に共働き夫婦の増加をはじめ、片親家族など家族の形態の変化、勤労貧困層の増加などにより、放課後に放置される子どもが増加している。このような変化の中で進展している少子化は、教育格差をより大きくしている原因にもなっている。少子化のため、子育てに集中的に全力を入れている家庭もあれば、そうでない家庭もあって、その差はどんどん大きくなっているのである。また、社会に進出している女性の増加現象も目立っている。そのため、仕事を持つ母親が安心して働けるように、子どもの教育と共に保育プログラムの運営がより必要となっている。

 ・子ども・青少年の36.3%が放課後に保護者なしに放置(2004年、青少年委員会)
 ・共働き家庭の83%が学校内の保育プログラム利用希望、(2005年教育人的資源部)

第三に、私教育費の軽減のための放課後教育活動の改善が要求されている。1995年以後、特技・適性教育などの学校における放課後教育活動が導入されたが、子ども・生徒の参加率は31.3%にとどまっている(全体学校の99.3%が放課後教育活動実施)。政府の努力にも関わらず放課後教育活動への参加率がそれほど変化しないことから、このままでの放課後教育活動では子どもと親の多様な課外教育への要求を吸収するには限界があるのでは、という認識が形成されている。韓国教育開発院の調査からも、保護者の32.4%が特技・適性教育に不満を持っていることが分かった(韓国教育開発院、2004)。また、国務調整室の資料によると、私教育問題を解決するための最優先課題として放課後教育活動が挙げられた(29.8%)(2004年12月、国務調整室、行政サービスモニター資料)。


 3.韓国の「放課後学校」のヴィジョンと運営方向

 「放課後学校」のヴィジョンは「誰でも、学校で、最高の多様な教育を受けられるようにする」ということである。教育部は、この「放課後学校」とは「自律性、多様性、開放性がより拡大された革新的な教育体制」と意味付けている(教育人的資源部、放課後学校モデル学校の担当者ウォークショップ資料、2006)。

 放課後学校が目的とするのは、疎外階層への集中支援による「教育福祉の実現」、多様な教育需要の学校内への吸収による「私教育費の軽減」、地域社会、関連機関などの連携体制の構築と生涯学習による「学校の地域社会化」ということにある。

 今までの「放課後教育活動」と2006年からの「放課後学校」を内容的に比べてみると、運営主体、指導講師、教育対象と場所などで大きな変化が見られる。まず、学校長が運営の主体であったのが、学校長、大学、非営利法人(団体)など運営主体が多様化したことである。また、現職教員が中心であった指導講師も、現職教員、専門家、塾の講師、地域の社会人事など多様化している。さらに、教育の対象も本校在学生だけではなく他校の子ども・生徒、地域社会の成人を対象とするなど、漸進的に拡大している。教育の場所も、本校の施設を中心に行われていたのが近隣の学校及び地域社会の多様な施設を利用するという方向になってきている。プログラムに関しても、供給者中心ではなく、需要者である子ども・生徒の個々人のプログラム選択権を最大に保障する、というのが基本方針となっている。

〈表1〉従来の「放課後教育活動」と「放課後学校」
放課後教育(従来) 放課後学校(現行)
運営主体 学校長中心 学校長、大学、非営利法人(団体)など運営主体の拡大
指導講師 現職教員 現職教員、専門家、塾講師、地域社会からの人事など多様化
教育対象 本校の在学生中心 他校生、地域星人にまで拡大
教育場所 本校施設中心 隣接学校、地域社会の多様な施設の最大の活用
プログラム 供給者中心 需要者である子ども・生徒の個々人の選択権の最大の保障

特に、プログラムは地域社会、学校の条件を考慮し、多様な教育需要者の要求を受容、保育、自己学習力の伸張、心性、創意性の啓発、生涯学習など、青少年の保護・先導機能を持つようなすべてのプログラムが開かれている。運営の例としては、小学校の保育プログラム、特技・適性啓発プログラム、教科関連プログラム、人格・創意性の啓発プログラム、英才教育プログラム、成人対象の生涯学習プログラム、その他放課後学校運営の目的に応じる諸プログラムなどが挙げられる。保育プログラムの場合、小学校低学年を中心として運営しており、必要な場合はすべての学年に拡大することも考えられうる。場所は余裕教室を利用し、可能な範囲では指定教室(Home base)を設置するのが望まれている。運営時間は、放課後、夏・冬休み、休みの土曜日(韓国では月2回学校五日制)になる。教育費は受益者負担原則であるが、低所得階層の子どもに対しては無料で利用できるように支援する計画が立てられている(2006年2学期から放課後学校のバウチャー制度運営)。

 また、指導する講師を多様化するために、教育大学、師範大学の学生の放課後学校への参与を奨励しており、教育庁レベルでは教育大学、師範大学、隣接大学との連携、協力の強化(大学生の補助教師、Mentoring、名誉教師を迎えるなど、運営の方法が工夫されている。


 4.韓国の「放課後学校」の運営状況

 2006年6月現在、放課後運営に関連する主要統計は次のとおりである。

 1)放課後学校実施学校及び参加する子ども・生徒の比率
 
 現在の放課後学校の運営学校の比率は、小学校99.6%、中学校98.4%、高校の97.6%(人文系99.2%、実業系94.2%)であり、全体的に98.9%の学校が参加しているという。
 放課後学校への子ども・生徒の参加比率は、小学生の36.4%、中学生の28.9%、高校生の72.2%(人文系82.2%、実業系45.0%)で、全体的には42.6%の子どもと生徒が参加している。中学生の参加比率が他に比べて低いのが目立つ。

〈表2〉放課後学校の実施学校及び参加する子ども・生徒の比率(%)
与度 小学校 中学校 高等学校
一般系 実業系
参与学校比率 99.6 98.4 99.2 94.2 97.6 98.9
参与生徒比率 36.4 28.9 82.2 45.0 72.2 42.6
 金洪遠(2006)、「放課後学校の性格と意味」,第2回放課後学校フォーラム,韓国教育開発院

2)プログラム類型別の参加現況
 
 プログラムは、小学校ではコンピューター、音楽、美術、体育関連のプログラムが選好されており、中学校では英語、数学、国語などの教科プログラムが好まれている。高校では社会、英語、数学、国語などの教科プログラムが圧倒的に好まれている。実業系高校ではコンピューターへの選好度が高い。

〈表3〉放課後学校の類型別のプログラムの数
学校種 国語関連 社会関連 数学関連 科学関連 英語関連 中国語 日本語 コンピューター 音楽関連 美術関連 体育関連
3,863 81 2,393 3,536 4,718 925 191 9,186 7,922 7,159 5,169 4,757 49,998
比率 7.7 0.2 4.8 7.1 9.4 1.9 0.4 18.4 15.8 14.3 10.3 9.5 100.0
3,210 1,436 3,746 2,175 4,643 862 1,220 1,836 3,065 1,414 3,281 2,897 29,785
比率 10.8 4.8 12.6 7.3 15.6 2.9 4.1 6.2 10.3 4.7 11.0 9.7 100.0
高人文 7,288 7,357 7,216 6,382 7,058 159 304 314 463 412 610 884 38,447
比率 19.0 19.1 18.8 16.6 18.4 0.4 0.8 0.8 1.2 1.1 1.6 2.3 100.0
金洪遠(2006)、「放課後学校の性格と意味」,第2回放課後学校フォーラム,韓国教育開発院


ア)特技・適性プログラム:
 特技・適性プログラムの参加現況は小学生36.4%、中学生15.2%、高校生25.0%(人文系7.0%、実業系23.7%)で、全体的に25.0%が参加している。プログラムの数は、小学校は学校当平均8.9個プログラム、中学校6個、高校6.5個(人文系5.5個、実業系7.8個)と調査されている。
 参加講師を見ると、現職教師が37.5%、外部講師が62.5%参加している。現職教師のうち、無給の講師が2.7%、外部講師では4.2%が無給である。

〈表4〉放課後学校の特技・適正教育プログラムの例
領域 プログラムの内容
一般教科関連 作文(小説、詩など)、古典文学研究、中国語会話、ドイツ語作文、古典小説購読、英語映画鑑賞、英語演劇、CNN聴取班、数理探求班、実験・探求班、植物・地質・鳥類探求班、発明班、文化遺跡踏査班など
音楽 合唱、声楽、ピアノ、ヴァイオリン、プルート、チェロ、クラリネット、レコーダなど楽器演奏、作曲、音楽鑑賞、国楽、民謡、昌、 タンソウ、カヤクム、コムンコ、ヘクム、パンソリ、合奏班など
美術 筆書き、韓国画、絵画、彫刻、デッサン、紙工芸、陶芸、デザイン、版画、工芸など
体育 サッカー、バリーボール、バスケットボール、バドミントン、ボーリング、卓球、水泳、剣道、太拳道、テニス、スケート、韓国舞踊、バレー、シルム、射撃、 GATE-BALL、事物のリー(遊び)、仮面踊り、鶴踊りなど
コンピューター ウォード、インターネット、グラフィック、情報通信、CAD、コンピューター組み立て、パワーポイント作成、OA、Exelなど
趣味 写真、アニメーション、童話、雄弁、演技班、放送班、囲碁、漫画、速読、新聞製作、ビデオ映画制作、演劇班、自己表現演劇班、風物班、栽培、製パン、料理など


イ)教科プログラム(小学校は禁止原則):
 教科プログラムの参加現況は、中学生15.8%、高校生の人文系103.5%、実業系25.9%である。学校別のプログラムの運営数は中学校5.8個、高校21.6個(人文系26.3個、実業系8.5個)
 参加講師を見ると、現職教師が95.6%、外部講師が0.4%参加している。現職教師のうち、無給の講師が2.0%、外部講師では1.1%が無給である。

ウ)生涯教育プログラム:
 生涯教育プログラムとは、地域住民を対象としているプログラムであり、親子が共に参加していることも含む。教科プログラムへの参加は、小学校2.0%、中学校1.4%、人文高校0.6%、実業系高校1.0%という参加状況である。学校種別プログラム運営の数は小学校3.0個、中学校1.8個、高校1.6個である。参加講師の現況は、現職教師39.6%、外部講師60.4%で、現職教師の中で無給は44.1%、外部講師の中で無給が29.9%を占めている。

 3)子ども一人当たりの参加講座の数
 
 子ども・生徒一人当たりの月平均受講講座数は、小学校1.5個、中学校2.1個、高校4.7個である。子ども・生徒の月平均受講料は小学校20,800ウォン、中学校19,800ウォン、高校28,300ウォンとなっている。

〈表5〉放課後学校の特技・適正教育プログラムの例
小学校 中学校 一般系高校 平均
受講講座数 1.5 2.1 4.7 2.7
月平均負担額 20,819 19,785 28,274 24,708
一人講座数:総申請講座数(重複計算)/申請生徒数
一人当負担額:有料全体負担額/収益者負担生徒数(無料プログラム除外)
(資料:金洪遠、「放課後学校の性格と意味」2006.第2回 放課後学校フォーラム)

4)運営予算支援
 
 2006年3月から6月までに放課後学校の運営に所要した予算は810億ウォン程度である。学校、教育庁、地方自治体、企業からの支援予算は各々43.8%、43.7%、11.5%、1.0%となっている。ここでの学校予算とは、受益者負担を除いた学校自体の運営費から放課後学校運営のために編成・支出した予算である。
 また、低所得階層のために所要された予算は約530億ウォン程度である(2006.36)。学校、教育庁、地方自治体、企業の支援予算は各々65.2%、32.5%、1.9%、0.3%を占めている。


 5.「放課後学校」の運営事例:プサンの場合

 1)オンライン管理システム

 プサン広域市教育庁では、教師の業務負担を軽減し、子どもの講師と教科を選択する権を保障すると共に、親には「放課後学校」活動情報を提供するための講義開設、受講申請、受講生の管理など、「放課後学校」全過程をオンライン管理システムを開発し、学校に支援している。
 このシステムは、放課後学校の学事日程管理機能、ファイル登録を通した講師の講座登録機能、登録された講座により習熟度別講座を選択する受講申請機能、受講後講座に対する満足度を調査する自動設問調査機能、業務推進のための補助記録出力機能、資料共有機能など、教師、子ども・生徒、管理者別に向けた多様なメニュを提供している。特に、出欠状況を実時間にチェックし、親に知らせるSMS文字転送機能は親からの評判が高い。

 2)大学生・大学院生を活用した「メントル(Mentor)」学習の活性化

 中・高校と大学とが連携して、中・高校生の個別化学習に大学生をメントルとして活用する「教育大学院生教師制」が運営されている。この制度は生徒の学力向上、優秀性教育だけでなく、予備教師の学習指導能力の向上、教育疎外階層への支援などにも寄与することが期待されている。教育大学院生が参与する予備教師は、学期当30-40時間程度を、中学校、高校で英語、数学、習熟度別授業のメントル、高校の特別補充課程のチューターとして活動することになる。希望学生の場合、児童保護施設、保育施設への支援も可能である。参加者には履修状と旅費(150,000ウォン程度)が支払われる。

 3)放課後の「学習グループ」への支援(プサン地域の事例)

 自己学習力向上のため、地域の中・高校生が中心となって学習グループを運営し、支援している例もある。このプログラムは、希望者を中心に文学、数学、英語、科学、総合学習など、また学校と要望により多様な学習グループを構成し、放課後と休みの土曜日に運営している。
 学習グループの形態としては、TIME紙読み、数学問題研究、生活の中での数学研究、科学探求、ポートポリオーの作成、古典講読と討論班、新聞コラム要約と整理班、討論班などがあり、多様な内容のグループが構成できる。プサン教育庁では、学習グループ当たり300万ウォン(中学校は200万ウォン)の運営費を支援している。一定の水準を達したグループには認定書を授与することもある。また、内申書にも記録し、大学入学選考資料としても使えられるようにする。

 4)地域社会と連携した「学社融合の放課後学校」

 この事例は、学校は施設と環境を地域社会に提供し、また地域社会は「放課後学校」に必要な人・物を支援することによって、地域共同体を形成しているというものである。たとえば、学校は体育館、運動場、地下駐車場を開放し、地域社会からは優秀な講師を支援することで、低費用の受講料(週3回、10,000ウォン)の漢字教室など15個の特技・適性プログラムが運営されている。また、学社融合のプログラムとして裁縫教室、健康プログラムを、生涯学習プログラムとしてハングル教室、歌教室、サッカー、バドミントン、バレーボールなどが運営されている。

 5)全校生参加の放課後学校

 学校近隣に特技、適性教育、教科関連補充授業を受ける施設などが不在している農村所在の学校では、全校生参加の放課後学校が運営されている例がある。この学校の全校生は105人で、外部講師と本校教師、そして近隣所在の海洋警察所からも人的支援を受け、ネイティブースピーカー講師の英語と数学プログラムを除く大部分のプログラムが無料で運営されている。この学校では開始1ヶ月後に全校生105人の中95人もの生徒が参加し、高い反応を得ている。

 6)軍部隊と連携した放課後学校

 地域に所在する空軍部隊と連携し、軍人のうち免許状を持っている講師の支援を受け、多様な教育プログラムを運営している学校もある。ゴルフ、太拳道、卓球、サッカー、グライダー、数学、英語会話などの多様なプログラムが学校あるいは軍部隊で行われている。
 この他にも、教育庁・大学・言論社・企業と連携した放課後学校、町所在の全学校が相互統合的に運営している放課後学校、言論社・社会福祉法人と連携した放課後学校、宗教団体と連携した放課後学校など、学校の環境、条件、子どもや親の要求によって、さまざまな形態の放課後学校とプログラムが生まれ、行われている。


 6.日本の「放課後子どもプラン」と韓国の「放課後学校」

 韓国が私教育費の軽減をはじめ、教育福祉、教育格差の問題解決を目指し、放課後学校の運営に拍車をかけているに対して、日本の文部科学省と厚生労働省は、2007年度から全国すべての公立小学校で、放課後も児童を預かることを決めている。これは小学校内での預かりを基本として、空き教室や体育館、児童館なども利用することを想定している。
 日本の放課後教室政策に関連して報道された読売新聞の記事を引用してみよう。

 文部科学省と厚生労働省は、放課後児童の健康管理や遊びの活動への意欲と態度の形成、遊びを通しての自主性、社会性を培うこと、家庭や地域での遊び環境作り支援ということを狙いとしている。 子ども達をみるのは、教員OBや地域の住民達。指導の内容は勉強やスポーツのプログラムを用意して、児童が放課後を学校で過ごす環境を整えるほか、共働き家庭の子ども向けには、更に時間を延長して対応する方針である。両省では、来年度の総事業費として約1,000億円を見込んでいる。この事業は、1)全児童対象の時間帯、2)親が留守の家庭の子どもを対象とする時間帯、という2本立てとしている。
 全児童対象の時間帯(放課後から午後5、6時ごろまで)では、授業の予習・復習などの「学び」や、野球、サッカーなどの「スポーツ」、図工、折り紙などの「文化活動」、地域のお年寄りなどとの「交流」、お手玉やメンコなどの「遊び」といったプログラムを行う。希望すれば、毎日参加できる。「学び」は教員OBや教職を目指す大学生による「学習アドバイザー」が担当し、そのほかのプログラムは、地域のボランティアが指導する。全小学校に配置するコーディネーターが、ボランティアの確保や活動プログラムの策定を行う。文科省では、「経済的な理由で塾に通えない子どもに学びの機会を増やすことにもなる」としている。
 それ以降の時間帯(午後7時ごろまで)は、共働き家庭などのおおむね10歳未満の子どもが対象で、保育士や教師の資格を持つ専任の指導員が生活指導などを行って、遊びの場を作る。利用料や開設時間は市町村ごとに異なるが、全児童を対象にした時間帯の利用料は無料になる見通し。ボランティア以外のコーディネーターや学習アドバイザーには報酬が支払われる。
 共働き家庭の子どもを対象にした従来の学童保育は、行政や保護者、民間企業などの運営主体が、厚労省の補助金を受けながら、小学校や児童館、民家を利用して行ってきた。しかし、こうした活動は全国の約6割にとどまっており、学童保育の拡充を望む声も少なくなかった。この事業は、これまでの学童保育を引き継ぎ、活動場所をすべて小学校内に移した上で、これまで実施されていなかったすべての地域に、学童保育を広げる意味合いがある。
 また、文科省も2004年から3か年計画で放課後に、地域住民と子どもが一緒に遊びやスポーツを行う「地域子ども教室」事業を進めており、今回は両省の事業が一本化される形だ。事業費は、国、都道府県、市町村で3分の1ずつ負担することになる。両省は国の負担分として、来年度予算の概算要求に約330億円を盛り込んだ
2006829  読売新聞)

両省の連携は、具体的には、従前の「放課後子ども教室」(文部科学省)と「放課後児童クラブ」(厚生労働省)を一本化、あるいは連携して実施するために、市町村及び都道府県における具体的な方策が「放課後子どもプラン」という名で進められている。各市道町村では、教育委員会が主導して福祉部局と連携を図り、原則としてすべての小学校区で放課後の子どもの安全で健やかな活動場所を確保し、総合的な放課後対策として実施する「放課後子どもプラン」を2007年に創設し、文部科学省と厚生労働省が連携して必要経費を要求する、というのが基本的な考え方である(文部科学省資料)。
 ここで、以上のような日本の「放課後子どもプラン」と韓国の「放課後学校」の趣旨や運営内容などを若干比較してみよう。

 ①対象
  韓国:小学生、中学生、高校生
  日本:小学生

 ②運営予算
  韓国:教育人的資源部(地域教育庁、学校)、地方自治団体、企業の支援
  日本:文部科学省と厚生労働省が都道府県で一本化し、実施主体である市町村においては一本化、あるいは連携しながら事業を実施する。

 ③推進背景と目的
  韓国:教育福祉の観点から教育格差の問題解決と私教育費負担の軽減を目的
     → 教育福祉実現+私教育費軽減+学校の地域社会化
     ⇒ 学力の向上、教育格差の解消
  日本:子どもたちの放課後対策事業の充実―地域の拠点である小学校を中心に、地域の大人と子どもが分けへ隔てなく集い、共に活動することにより、「地域コミュニティーの充実」という成果に結びつくことを目指す。ひいては地域の教育力の向上も目指している。
     → 学ぶ意欲がある子どもの学習機会の充実+すべてのこどもが地域の中で安心して健やかに過ごす「地域の教育力」の向上

 ④プログラムの内容
  韓国:以前の「特技・適性教育」「習熟別補充学習」「保育教室」を総称していることで、内容も「特技・適性教育」「教科関連プログラム」「生涯教育プログラム」という3領域と、共働き家庭の子どものための「保育プログラム」(小学校低学年)が加えられている。
  日本:以前の「放課後教室」(文部科学省)と「放課後児童クラブ」を一本的に運営することで、運営の内容も大きく、1)すべての小学生を対象とするプログラムと、2)共働き家庭の子どものための保育プログラムに分けられ、スポーツ、文化活動、地域人との交流、遊び関連のプログラムが運営される。

 ⑤指導主体
  韓国:現職教師と外部講師(地域住民、塾講師、在韓外国人、大学講師、大学院生、大学生、軍人、警察、企業の人など)。
  日本:コーディネーター(教員OB、大学院生など)とボランティア(地域の人)

 ⑥運営場所
  韓国:学校(主:余裕教室、指定教室)+学校外の社会教育施設、宗教施設など、他学校(隣接学校)
  日本:学校(余裕教室、体育館、校庭、保健室など)

 ⑦費用負担
  韓国:受益者負担の原則(教育庁、学校、自治体などの支援と現職教師の参加などで低費用)。ただし低所得階層の子どもに対しては支援(無料利用)
  日本:すべての子ども利用プログラムは無料、保育プログラムは受益者負担(数千円程度)

 ⑧支援予算
  韓国:約2,000億ウォン(2007年度)
  日本:約1,000億円(2007年度)

 以上の内容から見ると、韓国、日本共に、子どもの放課後活動に大きな関心を持ち、以前の放課後活動を改善、拡大していることが分かる。この推進のプロセスの共通点は、韓国と日本共に政府主導のトップダウン式の政策が立てられ、一方的に進められている、ということである。特に、韓国の放課後学校政策は超スピードで進んでいるといえる。韓国の場合、1995年からの放課後教育活動の経験はあるものの、モデル学校を1年運営して全国的に拡大していく、という現場教師の認識も転換しにくいような短期間であるといえざるを得ない。これに比べると、日本の放課後教室の経験や放課後児童クラブの経験は、相対的に長い経験を持っているといえる。しかしながら、今まで文部科学省と厚生労働省に分けて推進されてきたという点を考慮すると、両省の各事業への急な統合推進が関係者を当惑させることになるのは確かであろう。
 韓国と日本の対応で異なる点は、韓国は小・中・高すべてを視野に入れているに対し、日本は小学校だけを対象としていることがまず挙げられる。韓国が中・高校まで含んだのは、「放課後学校」の導入の趣旨が「私教育費」の軽減にあるということにも関係がある。私教育費の問題と教育格差の問題を解決するには、小学校だけを対象とした運営では不十分であると判断したからだと考えられる。さらに、当面の社会の問題を短期間に解決することを目指していたからこそ、超スピードで進むしかなかったのだろう。実際に、韓国では教育福祉の観点からも教育格差の問題や私教育費の問題の解決が図られており、私教育費とも競争できる放課後学校の運営を目指して、多様なプログラム運営が重要な課題とされているのである。これに対し、日本は放課後の子どもの健全な生活により焦点が置かれている。たとえば、放課後の児童の健康管理や遊びの活動への意欲と態度の形成、遊びを通して自主性、社会性を培うこと、家庭や地域での遊び環境作り支援ということが目的とされ、さらには共働き家庭の子どもの保育も目的に加えられている。


 7.韓国の「放課後学校」の運営上の問題と課題

 韓国の「放課後学校」は、運営主体の開放化、指導講師の多様化、教育対象の多様化、教育場所の多様化、プログラム選択の自律性、運営時間の弾力性という特徴を持ち、今までの私教育に代替できるような質の高いプログラムの提供が期待されている。しかし、この政策を実践するうえで、以下のような問題や課題を抱いているも指摘できよう。
 ①トップダウンによる政策
 ②短期間の無理な推進、不十分な準備と条件設備
 ③学校の正規の授業と放課後学校との関係、教室利用の問題
 ④現職教師の負担増加:コーディネーターの不在、放課後活動の担当
 ⑤学校施設の塾化の問題
 ⑥放課後の子どもの忙しさ:結果的に二つの学校通いになる負担の問題
 ⑦子どもの遊びの喪失の問題、教育的観点からの放課後活動への見直しの必要性

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